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[/100] 始動の経緯と、処女作となる「BELT」の製品化までのストーリーについて

History of the project [/100] start-up , and
The belt was born history .

STORIES

岡崎2015年の4月にSLOW&STEADYのウェブコンテンツとして二人で対談した際、個人的に田岡くんが作ってる革製品やそのモノに対する考え方とか価値観がすごく近い気がして。純粋な仕事に対する想いというか。だからこれは何か面白いことができるんじゃないかということで「何か一緒にやろう」と言ったのがはじまりです。それから1年4ヶ月ほど経ってるんですが、実は対談後すぐこのプロジェクトの打ち合わせは始まってて。今回ようやく第1弾のリリースとなりました。

田岡今回のプロジェクトで僕が面白いと思ったのは、岡崎さんが洋服は勿論、色んなアイテムに対して自分がこれだと思うものをセレクトしてお店をされている方なので、僕のような職人というか、作り手とは違う角度からこだわりであったり、見方があるという点で。そういった視点から始まるモノ作りというものに惹かれました。

岡崎最初は買い手がいるということを意識して、どんなアイテムにするか話し合っていたんです。当然「製品」というのは大前提としてある程度需要に応えられる枚数、ロット数があるものだと思うので。でも何度も打ち合わせを繰り返していく中でいろいろと疑問が湧いてきて。話し合いも難航する中で、だんだんと二人が本当に作りたいもの、本当に欲しいものというのが何となく見えてきた頃に改めて気づいたんです。僕らが純粋に作りたいモノって、限りなくニーズがないんじゃないかと(笑)というのも、一番最初に製品化の話が仮決定したアイテムが、革のガチガチのサスペンダーだったり、それこそ現実的に1個とか2個とかしか作れないものばかりで。けれど「まず自分たちが持つだけのモノでいいから、とにかく満足のいくものを作る。それ以外のことは考えない」ということにしたんです。そこからはとてもスムーズに進むようになりました。

田岡 そういった経緯から、当初は「SLOW&STEADY×ghoe」というような打ち出し方を想定していたんですが、もはやお互いの店の冠すら関係ないというか。個人 対 個人で真に迫った感じになってきて。いち服好きの人間といち革好きの人間が、本当に良いと思えるモノを作ろう、ということで [/100] の立ち上げに至りました。

岡崎コンセプトが固まってから改めて、サスペンダーの流れから「ベルト」にすぐ行き着きました。ただ、ghoeの製品ですでに定番のベルトがあって、当然ながら完成度がものすごく高いんです。となれば、この定番で出してるghoeのベルトとは全然違うアプローチかつghoeのお客さんにも満足してもらえるものじゃないとダメだと感じて。それで僕が普段、モノを見る際にどういう所に惹かれるのかと色々と考えた時に「アイテムの付加価値」なんじゃないかと。それは品質や素材以外で、モノが持つ「歴史」または「ストーリー」だったり。それに加えて僕がベルトを作るとしたら、絶対こんなバックルや幅がいい、といった実用性の面からの提案をして。

田岡普段僕が革製品を製作するにあたって革を選ぶ際の基準は、革の繊維の詰まり具合であったり「吟面」と呼ばれる表面の質感であったりとか、経年変化の美しさはもちろん、強度や耐久性とか、そういった革自体が持つ品質や性質。なので「歴史」や「ストーリー」っていう発想は僕にはとても興味深いものでした。あと、ベルトという製品は選ぶバックルによって、幅であったり全体のバランスが定義されるので、岡崎さんがどういうシーンでどういう幅のベルトに対して何を感じているか、何を求めているか、といったものは僕にはない知識なので、やっぱりうちで普段作っているベルトとはそこが違うアプローチでした。

田岡それから素材選びに入ったんですが、ベルトにするには「Bends」という牛の背骨の真上部分の革がやはり適しているので、それで何かないかと探していたらまさにそのタイミングでとある革との出会いがあって。その革というのが、イギリスの老舗タンナーであるトーマスウェア社というところが、2012年の代替わりのゴタゴタの際に鞣(なめ)したまま倉庫に眠らせていた、というもので。仕入れられたのは牛一頭のその部分のその革1枚だけだったんですが、実際に現物を見てみたら、本当に面白くて何より相当珍しい革で。なぜかというとそこはブライドルレザーで有名なタンナーなんですが、今回見つけた革はそのブライドルにする用のものが加工する前にストップしてそのまま保管されていた、というものだったんです。染色もその年限定の色味で。そんな状態で発見できること自体凄く稀なんですよ。そして大きいメーカーだとこういう継続性の無い革は嫌がるんです。そもそも数も作れないし。 またそういった蝋(ろう)を入れる前の段階の革というのは、しなやかさと経年変化の面白さ、かなり変色しやすいっていうのが特徴で。そういう面でも大手メーカーだとこういう革は絶対に扱わないと思います(笑)製品としての一つ一つのムラができやすいのもそうですし。
 ここからは余談ですが「染色堅牢度」という色落ちの基準が革業界にはあって。経年変化と一口では言えど「ある程度の期間はキープしろよ、ある一定以上は変化するなよ」という基準が設けられてるんですね。実はそのせいでノッペリした面白みのない革が巷には溢れているわけなんですが、そこで顔料を革の上からベタッと塗っちゃうという方法があるんです。そうするとそれこそ低品質な革でも、この「染色堅牢度」という基準を簡単にクリアできて、革の素性というか…そういったものも誤魔化せるんです。それは本来革職人からしたら嬉しくない。だから今回のような革は僕自身、すごくテンションが上がりました。変わればいいってものでもなく、綺麗に変化していくだろうというのも分かったし。

岡崎僕としても、このタンナーの時代背景と倉庫に眠っていたというストーリー、さらに大きいメーカーが嫌がる革という点も、個人的にはバッチリで。

田岡当然その1枚しかないので、そこからベルトとしてとれたのが23本のみでした。そこからこの23本につけるバックルを探すことになって、うちで普段仕入れている金具ももちろんあるんですが、そこは洋服屋さんとしての岡崎さんの意志が大事だろうと。

岡崎当初バックルは漠然とアンティークがいいなぁと思っていたんです。けれど古いものを1個づつ探してっていう作業は時間もかかるし、当然古ければなんでもいいとい思ってるわけでもないので、そもそも実際アンティークが本当にいいのか?という話にも立ち返って。機械のない大量には作れなかった時代のものっていうのは、多くの「人の手」や「時間」がかかっていたりして、時代が移り変わるにつれそういったものはどんどん少なくなってきているわけで。ただそういうものにどうしても僕は「ドキッ」としてしまうんですね。だから何かしら「遠回り」する感じは欲しかった。そんな時に田岡くんから東京浅草に「柳場美錠」という老舗店があるというのを教わりまして。
 とりあえず行ってみようということで訪問したんですが、店内はそれはもうすごい量で。入った瞬間「これは時間かかるなぁ」と思ったんだけど、それが少し運命的というか。しばらくしてひとつのバックルに目がとまったんです。で、「これいいかも」って話しかけようとしたら、後ろから田岡くんも「これいいじゃないですか」ってなって。さらに突然それまですごくドライな接客だったお店の方までちょっと笑ってしまうほどの勢いで説明しだしてくれて(笑)  「まずこのバックルはそもそも鋳物品というもので…」という話からピンの説明があって。今の真鍮のバックルって、外側は鋳物なんだけど、内側のピンは針金を曲げて作られたものを使ってるそうなんです。その方が強度も確かだし量も作れるからということで。だから「鋳物ピン」のものっていうのは今どんどん生産も少なくなってきているらしくて。そんな話を聞いてなおさらこれにしようって。でも数がなければそもそも諦めるしかない、数を尋ねたら今この箱に入ってるだけだと。数えたらちょうど30個いかないくらい、その数までピッタリで。
それと少し細かい話になるんですが、幅が27mmだったんですね。今まで28mmのは巻いたことあったんですけど、27mmってあまりベルトには使わないらしく、僕も見た事なくて。

田岡それも本当に運命的で。というのも今回仕入れた革の厚さも、普段うちが扱ってるものより1ミリ薄かったんです。革としてはその1ミリってかなり大きくて、つけ心地も全然変わるし。厚さも幅も1ミリずつ違う。これは今までなかったベルトになるのでは、という予感がしました。それで帰ってすぐ、1本作ってみたんです。

岡崎出来上がりの報告を受けて早速見にいくと、想像していたよりもずっと軽くて、巻いてみたら驚くほどストレスがない。ベルトのループに通すときの入れ込むときも「スッ」と入る程度の弾力がしっかりあって、それでいて巻き込んだときの柔らかさもちゃんとある。想像以上の仕上がりでした。

田岡そもそも、いちブランドの製品として捉えると、一般的には、今回のこのベルトの23本なんて圧倒的に少ないしまずありえないですよね。ましてやこの23本で打ち止めなんてきっと論外です(笑)でもあとで言われてももう作れないし。物理的に革がないから。けどそれも自然な想いとタイミングの上でのことで、それは『/100』のコンセプトでもあるので。お互いに突き詰めた製作ができたと思ってます。特に今回、服飾の発想からのアプローチに対して職人として純粋に100%を見出す行為や、応える作業がとても新鮮で楽しめました。誰が欲しかろうが欲しくなかろうが、自慢できるものができたと自負しています。そういった個人的な「楽しみ」みたいなものを一番に立てて制作できたのは本当に大きい。

岡崎ただ正直今回、このベルトに対するこだわりを1から100まで説明して、果たして何人の方に響くかどうか。個人的には僕も本当にどこに出しても恥ずかしくないものができました。それでも、その分母は限りなく狭いんじゃないかと (笑)
けれど第2弾、3弾とすでに構想はあって…最初に出たサスペンダーも全然捨ててないし(笑)今後、「何作ってるんですか?」みたいなモノをリリースする可能性も十分にあります。そういう意味では第1弾がベルトという製品に落ち着いて良かった(笑)どんなジャンルでも、こだわりが過ぎればニーズは狭くなって、お客さんがいて販売という形をとる以上どこかで線引きは必要だけど、仕上がって2人が満足いかなければ何度でもやり直す。どれだけ時間がかかっても、それが採算のあわないものだとしても、試行錯誤しながら本当に納得がいく製品だけを『/100』はリリースしていきたいと考えています。製品化が難しそうなものであればあるほどトライしていきたいですね。